[ 感想 ] :: IMPRESSION
nes『w/ concussion』
2025/06/27
concussion [kənkˈʌʃən]
意味:震動、激動、震盪
全体の感想
nesさんの初期句編「w/ concussion」拝読しました(URLは こちら)。
めちゃくちゃおもしろかったです!
一句単位での感想の前に、まずは句編全体について。
いわゆるネット川柳と、それ以前のリアル句会の川柳の断絶は勿体ないなあと思っている。先日のらくだ句会で小池正博さんとも話したけど、混ざった方が面白いに決まっているので。
nesさんのPIXIV FANBOXより「2025/05/27_日記(ネット句会とリアル句会)」
現代川柳のジャンルを大きく分けると「インターネット」と「リアル句会」の二つになるのかなと思うのですが、それでいうとこの句編(特に第II部)は前者に分類されると思います。私はnesさんが川柳を始めた去年の年末くらいから作品を追っていて、当時感じていた「自分には技術とかまだわからないけど純粋におもしろい!」という感動をあらためて体験できる一冊でした。
一方で、掲出の文章のように大局観をもって作句されており、最近はリアル句会での活躍も目を瞠るものがあります。そういったオールラウンダーだからこそ、今回出された本がネット成分の濃い句編となったことを一ファンとして嬉しく思います。既発表/未発表合わせて2600句以上ある中からあえてこのようなスタイルをとっているのが非常に熱いです。
あとがきに「作家性がまだまだ確立できていない」と書かれていましたが、スピード・パワー・テクニックを兼ね備えているがゆえにそういう自己評価になるのかなと…。句編の制作過程も追っていましたが、やっぱりちょっと信じられないくらい速い。ほぼ毎日川柳三十句(or 短歌十首)を発表しているのも凄すぎます。発表される作品の量・質に対して、評や感想が追いついていないという印象もありつつ、このバイタリティは紛れもない作家性だと感じています。
すきな句の感想
これ以降、特にすきだった句の感想と、僭越ながら十句選というのをやってみようと思います。以下、引用する川柳は明記がない限りnes「w/ concussion」より。
虐殺のあいだも増える鏡餅
映画『関心領域』のことを少し想起しました。全体的に軽妙さのある連作の中でこういった社会派(だと思う)の句が入っているのがバランスとれていていいなと思います。二物衝撃として、虐殺の対極の存在って確かに鏡餅かもという不思議な納得感がありますね。前者の凄惨なイメージに後者のやわらかなあたたかいイメージ(雅楽が流れていそう)が混ざってきて不思議な気持ちになりました。一方で鏡開き(=割る)や蜜柑が人の頭部に見える幻視なども引き起こされ、語彙の選択に無駄がないなと感じました。
余罪から溶けてく神っぽいなそれ
「やがてホワイトノイズ」はボカロ曲からの引用をもとにした連作で、同世代のボカロ好きとして全部おもしろく読みました。その中でも『神っぽいな』は単体のフレーズとしてかっこよく、川柳に組み込んだときに映えるなと感じました。また、 余罪から/溶けてく神っ/ぽいなそれ の句跨りのクールさもあいまってすごく好きです。神→原罪→余罪と緩く連関しているのも、引用のおもしろさを引き立たせていると思います。
少し脱線するのですが、第II部を読んでいて思ったことを書きます。たとえば
水羊羹はまったくもってみっくみく
狂ってる?それ、折り紙の雪原ね
うつくしさの土筆の部分摘んで、マザー
バ美肉のきみがピアノを狩る理由
といったボカロやネットミーム、部分ツイートやVTuberといったモチーフが第II部の特徴だと思うのですが、これらは伝わる層が非常に限られています。つまり一般的な句会向けではないということなのですが、こういった句を元ネタを知らない人がどう受容するのかということに興味があります。(今年のR-1グランプリで、友田オレが最終決戦ネタの最後に “This Man” の要素を入れていてびっくりしたのですが、例の都市伝説を知らない人はどう捉えたんだろう。)
ネットミームに限らず、川柳に固有名詞を入れるときは、それがマイナーであればあるほど韻律や語感(テクスチャー?)が重要になってくると思います。ここでの引用は安直かもしれないですが、短歌でいうと
みっくみくにされてしまった人たちが(みっくみく?)蟹を黙って食べる/郡司和斗「遠い感」
狂ってる?それ、褒め言葉ね。わたしたちは跳ねて、八月、華のハイティーン/青松輝「4」
などが有名ですね。短歌と比べて川柳でミームを引用するのが難しいのは、単純に音数の制限によって「わたしたちは跳ねて、八月、華のハイティーン」の要素が入れられず、単なるおもしろで終わってしまうリスクが高いことにありそうです。ネタツイと現代川柳は明確に分けたい、と私は思っていて、このミームを使うことで初見の読者の感情をどう動かせるかというのは自分自身の作句でも意識したいポイントです(紙の本で出す、というのはひとつ説得力が増す要素かも)。
シャンデリア崩して青い青い猫
「nesさんの川柳を一句挙げて」と言われれば、これを真っ先に選ぶかもしれません。本当にかっこいい。「シャンデリア」「猫」の取り合わせが名詞フェチの私に刺さるのと、シャンデリア崩して青い/青い猫 もしくは シャンデリア崩して/青い青い猫 の切り方によって意味合いが変わるのもおしゃれだなと思います。個人的には前者で読みたくて、「シャンデリアが崩れて訪れる青い闇」と「そのパーティールームを優雅に歩く青い猫」の景が非常に幻想的です。
韻律もめっちゃ好み、というか普通に真似してしまっていて、最近私がアイリス句会に出した「カミーユの虫歯も北の北の星」という句などは完全にこの句のオマージュです。柳歴もほぼ同じ作者の川柳を真似するのはよくないなと自分で思いつつ、やっぱり魅力的な句です。
以下、本句編から特にすきだった十句を引用して本稿を締めたいと思います。
十句選
エクレアを墓に供えている天使
虐殺のあいだも増える鏡餅
鋭角の時計 切腹してやらあ
筒の中を真逆に去っていく時間
余罪から溶けてく神っぽいなそれ
狂ってる?それ、折り紙の雪原ね
啓蟄の粛聖!! ロリ神レクイエム☆
水飴の意思が共有されている
少年の恥骨五月がすり抜ける
シャンデリア崩して青い青い猫